エルミタ的速攻撮って出しレビュー Vol.1671
2026.06.16 更新
文:撮影・編集部 松枝 清顕/池西樹(テストセッション)
NL-PNA1の開発において興味深いのは、Noctuaが単純な騒音レベルの低減だけを目標としていない点だ。一般的な製品比較ではdB(A)値が重視されるが、人間が音を不快と感じる要因は音量だけではない。周波数特性や音の質もまた、快適性を左右する重要な要素となる。
NoctuaはNL-PNA1の評価にあたり、従来の音圧レベル測定に加え、周波数分析や心理音響学(Psychoacoustics)の観点からも検証を行っている。
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| 周波数スペクトラムによる比較。NL-PNA1装着時は3kHz以上の高周波帯域を中心にノイズ成分が低減しており、耳障りなポンプノイズの抑制に寄与していることが分かる(提供:Noctua) |
まず周波数スペクトラムの比較を見ると、NL-PNA1装着時は高周波帯域のノイズ成分が低減されていることが分かる。特に耳が敏感に反応しやすい高周波領域では差が現れており、耳障りなポンプノイズの抑制に効果を発揮していることが読み取れる。
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| NL-PNA1(Pump Noise Absorber)のカバー部 |
前ページで紹介したスペクトログラムによる比較でも、その変化を時間軸で確認できる。NL-PNA1装着時は3kHz前後を中心とした高周波成分が減少しており、単なる音圧レベルの低減ではなく、音の性質そのものが変化していることが分かる。
Noctuaはこうした周波数特性の変化が、実際の聴感にどのような影響を与えるかについても評価を行った。その指標として採用されたのが「Annoyance(不快度)」だ。これは心理音響学に基づき、人間が音をどれだけ不快に感じるかを数値化したものだ。
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| 心理音響学的な「不快度(Annoyance)」の比較。NL-PNA1装着時はPWM全域で数値が低く、音圧レベルだけでは表せない聴感上の快適性向上にも効果を発揮している(提供:Noctua) |
測定結果では、NL-PNA1装着時の方が全体的に低い数値を示しており、ポンプノイズが聴感上でも改善されていることが確認できる。興味深いのは、Noctuaが単純なdB(A)値ではなく、最終的にユーザーがどのように感じるかという部分まで評価対象としている点だ。
つまりNoctuaが目指したのは、単に「より静かなポンプ」ではない。耳障りな高周波成分を抑え、人間が長時間聞いていても気になりにくい音へ変化させることだった。NL-PNA1は単なる防音カバーではなく、ポンプノイズそのものの質を改善するために開発された音響デバイスと言えるだろう。
冷却性能を追求するAIO水冷では、ポンプ回転数をできるだけ高く設定するアプローチが一般的だ。しかしNoctuaは、NL-LC1シリーズの開発において異なる考え方を採用している。
同社によれば、ポンプ回転数の上昇は確かに流量や揚程の向上につながるものの、CPU温度の改善効果は必ずしも比例して大きくなるわけではない。一方で、高回転化によって発生するノイズや振動は増加しやすく、静音性への影響は無視できないという。
そこでNoctuaは、Emma V2プラットフォーム向けに独自の「Pump Speed Profiles」を開発した。これは単純にポンプを最高回転数で動作させるのではなく、冷却性能と静音性のバランスが最も優れる回転数を見極め、その範囲で制御するためのチューニング機構だ。
用意されるモードはQuiet、Balanced、Manualの3種類。これらはソフトウェアによる設定ではなく、ポンプ本体に搭載された小型スイッチによって切り替える方式を採用している。特にBalanced Modeは、液温が低い状態では回転数を抑えつつ、温度上昇時のみ高回転域を利用する設計となっており、Noctua自身もバランスの取れた設定として位置付けている。
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| Quiet mode(約2,100rpm)、Balanced mode(約2,600rpm)、Manual mode(約3,400rpm)の騒音比較。ポンプ回転数の上昇に伴い騒音レベルも増加することが分かる。Quiet modeは約6dB(A)、Manual modeは約18dB(A)(提供:Noctua) |
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| ポンプ本体にはQuiet、Balanced、Manualを切り替えるための専用スイッチを備える。ソフトウェアに依存しないシンプルな設計も特徴だ |
資料では、これら3つのモードそれぞれで異なる回転数制御が行われることが示されている。
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| Quiet、Balanced、Manualの3モードを搭載。液温に応じてポンプ回転数の上限を変化させることで、冷却性能と静音性のバランスを最適化している(提供:Noctua) |
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| Quiet mode(約2100rpm)とManual mode(約3400rpm)の比較。高負荷環境では温度差が拡大する一方、一般的な負荷では差は比較的小さいことが分かる(提供:Noctua) |
さらにNL-LC1シリーズには、自動エア抜き機能も実装されている。システム起動時には一定時間ポンプを最高回転数で動作させることで、ループ内に滞留した気泡を排出。ポンプ内部へのエア噛みを抑制し、長期的な静音性と冷却性能の安定化を図っている。
つまりNoctuaが重視したのは、カタログスペック上の最大流量ではない。実際の使用環境において、冷却性能と静音性を最適なバランスで両立させることだった。これはEmma V2の採用やNL-PNA1の開発とも共通する、NL-LC1シリーズ全体に通底する設計思想と言えるだろう。

