絵踏一のKeyboard一点突破 Vol.3

Cherryが贈る唯一にして完全なるエルゴ、「MX5000」が体現するキーボードの最終回答

2013.02.05 更新

文:GDM編集部 絵踏 一

  • rss
  • Twitter
  • Facebook
  • google+
  • hatena
  • pocket
 バックリングスプリング、アルプス軸と続いた「絵踏一のKeyboard一点突破」の第3弾は、キーボード界で不動の地位を築くCherry製鍵盤からの選りすぐりをご紹介しようと思う。多彩なスイッチラインナップを誇る同社は、もちろんスイッチユニット以外にキーボード本体の生産も極めて盛ん。生み出された数々の“純正品”は、愛好家たちの間でも長く愛されている。
 そしてその中から手に取ったのは、スタンダードなモデルが多い中でCherryが唯一世に送り出したエルゴノミクスデザインキーボード「ErgoPlus Model MX5000」(型番:G80-5000HPMUS)だ。スタンダードを崩さない筋目正しさと人間工学の絶妙な融合を実現する、大胆な変形機構と最適な配列。キーボードというデバイスから導き出された最終回答の一つと言っても過言ではない存在なのだ。
MX5000
Cherry「ErgoPlus Model MX5000」(型番:G80-5000HPMUS)
発売時期:1995年前後

メカニカルスイッチの代名詞にして、“世界最古”のキーボードメーカーCherry

キーボードの本体を紹介する前に、まずは現代を代表するキースイッチ“Cherry軸”の生産を手がけるZF Electronics GmbH(本社:ドイツ)についての話から始めよう。

そもそも同社は、1953年にWalter Cherry氏によってアメリカイリノイ州に設立された電子部品メーカーCHERRY Electrical Productsをルーツとしている。1967年には早くもキーボードとキーボード用マイクロスイッチの生産を開始。同社によれば、これは“世界最古のキーボードメーカー”が誕生した瞬間だという。
 その後1979年に本社をドイツバイエルン州のアウエルバッハに移転し、CHERRY GmbHへと衣替え。そして2008年ドイツの自動車部品メーカーZF Friedrichshafen AG(本社:ドイツ バーデン=ヴュルテンベルク州)に買収され、現在の体制に落ち着いている。

MX5000
今年で創業60周年を迎える“世界最古”のキーボードメーカーCherry。今やメカニカルスイッチの代名詞といってもいい存在で、世界中のユーザーたちの手元で日々そのスイッチが動いている

もちろんその後も由緒あるCherryブランドは健在。キースイッチをはじめ、Cherryロゴが刻印された様々なマイクロスイッチの生産を行なっている。特に高級キーボードの謳い文句にも使われる“Cherry軸”ことCherry MXスイッチは、世界中のキーボード愛好家たちの間で人気が高い。入力を指先で感知できる「茶軸」「白軸」や打鍵音を付加した「青軸」などのタクタイルスイッチ、リニアに押下圧が変化する「黒軸」「赤軸」といったリニアスイッチなど、荷重や打鍵感の多彩さ、そして何より入力の心地よさがその魅力だ。

Cherry軸搭載の高品位キーボードがあふれる市場もその価値を証明しており、コアなPCユーザーの間ではCherryの名を知らない人はほとんどいないだろう。創業から60周年を迎える今では、すっかりメカニカルスイッチの代名詞的な立ち位置に収まっている。

MX5000
Cherryの代表的なメカニカルキーボード「G80-3000」シリーズ。奇をてらわないスタンダードな配列に質実剛健な筐体を採用する。業務用端末も多く手がけるCherryの真骨頂だ

スタンダードをアジャストできる、最高のエルゴキーボード「MX5000」

今回の主役「ErgoPlus Model MX5000」(以下「MX5000」)は、奇をてらわないという通常のCherry製キーボードとは一線を画するモデルだ。同社がこれまでで唯一リリースしたエルゴノミクスデザインのキーボードで、配列こそスタンダードの面影を残しながらも、実にオリジナリティあふれる外観をしている。

最大の特徴は、その単純かつユニークな変形機構だ。中央から真っ二つに分かれて扇状に展開、ハの字に広がることで肩幅をくつろげたままの姿勢で入力できるため、身体への負担が少ない。さらに展開の角度はもちろん、2段階構造のチルトスタンドを組み合わせることで高さや傾きも変えることが可能な、いわゆる“アジャスタブルキーボード”なのだ。
 一般的なエルゴノミクスデザインキーボードは身体に優しい特殊形状をしている反面、その決め打ちの姿勢を強いられるという性格もあった。しかし人それぞれが異なる身体をもつ以上、“最適”の定義も人によって違うため、調節の余地があるのは極めて重要なことだ。

MX5000
スタンダードな配列ながら、中央からハの字に展開するエルゴノミクス設計のキーボード「MX5000」。さらにチルトスタンドを組み合わせ、好みの傾きに調整できる

キースイッチは柔らかで荷重の軽いCherry MX茶軸を採用する。今ではすっかりお馴染みなMX茶軸は打鍵感にもクセが少なく、万人向けといえるスイッチ。意識せずに誰でもすぐに使いこなせるため、エルゴノミクスキーボードとの相性は抜群だ。
 また、接続インターフェイスはPS/2。現行のマザーボードでもそのまま接続できるため、導入のハードルも低くほとんどの環境で使えるだろう。

しかし余談ながら、この「MX5000」は愛好家たちの間で非常に高額なキーボードとして有名なモデルで、価格面でのハードルは極めて高い。FCC IDを確認したところ登録は1995年の11月と約17年前の製造だが、全体の生産数が少なかったため現在の流通量はごく少量。そのためこの素晴らしいキーボードを求める好事家たちの競り合いで値が釣り上がり、オークションサイトなどでは中古でも10万円以上、未使用品なら20万円以上の値がついたこともあった。数あるキーボードの中でも異例に高額なものの、それもこのモデルの価値を推し量る要素の一つといえるかもしれない。

totop